太田胃散

スプーン通信

茶の湯の健康

茶道研究家 筒井紘一氏

茶道研究家
筒井紘一氏

野菜ソムリエ/調味料ジュニアマイスター NPO法人青果物健康推進協会ベジフルティーチャー井上憲子さん

Q1 筒井先生と茶の湯の関係を教えてください。

私は九州の福岡、飯塚の生まれです。大学時代、夏休みに帰省した時、母のお茶のお稽古について行ったのが、初めてのお茶体験ですね。18歳くらいでしょうか。お稽古先は、元炭鉱王の伊藤伝右衛門(旧伊藤伝右衛門邸)さんのお宅。考えられないほど大きくて、調度品もすごい。お茶というのは、こういう世界で行われるのか、と感動したのを覚えています。

Q2 お茶の歴史を教えてください。

最澄と空海が中国から戻り、茶を伝えた。というのが定説です。その時一緒に戻った僧永忠が、滋賀県近江の梵釈寺で「嵯峨天皇に茶を煎じ振る舞った」とあり、これが記録上の最初の茶事と言われています。平安時代です。日本に茶道を伝えた栄西禅師の「喫茶養生記」は、1214年に源実朝に献上されました。その頃は、粉状に挽いたお茶を茶碗に入れ、湯を注ぎ、茶筅で泡立てて飲んでいたようです。これが現在の茶道に近いスタイルかもしれません。千利休などによって、茶の湯が確立されるのは中世になってからです。

Q3 茶を伝える本には、唐の時代の「茶経」というのもありますね。どんな内容ですか。

唐の文筆家で陸羽が書いた、お茶の知識を記した三巻からなる本です。例えば、午前中は霧がでて、夕方までふわっとした光があたる南側の斜面の茶をつみなさい、土は石の多い場所や粘土質はダメです、などと自然環境から製茶法、飲み方〜水まで、茶に関しての詳細を網羅したもの。ここで扱われているお茶は餅茶といいます。つんだ茶葉を蒸してつき、500円硬貨ぐらいに固め団子状にしたものです。それを乾燥させ、保存。飲む時は薬研で砕き、お湯を沸かした釜に投げ入れます。湧き上がったら、塩を入れて飲みました。

Q4.中国から伝わった、お茶はどのようなものでしょうか。

唐代は団子状のものを粉末にして飲んでいた。餅茶と呼ばれていました。宋代になってからは、葉を乾燥させ、粉末にした茶葉を天目の茶碗に入れ、掻き混ぜて飲んでいたといいます。これが片茶です。この時代になると、貴族や文人を始め、裕福な市民などにも広がりました。どちらにしても粉末状のもの煎じて飲みます。

Q5.栄西禅師の「喫茶養生記」について詳しく教えてください。

上巻は茶の栽培方法や効能などを説き、下巻は桑の薬効を説いた計二巻からなる本です。桑の根はいたるところに根をはり、地球のエキスを吸い上げた根からでる葉は、最高の薬、蚕も粉末にして薬にする、などと桑のことも実に詳しく記述してあります。室町時代には、この本は「茶桑経」とも呼ばれました。一般に読まれるようになったのは、江戸時代から。健康のために茶や桑の飲用を提唱したこの本は、高く評価され、後世まで読み継がれることになったのです。桑には、ポリフェノールもたくさんあり、現在も桑茶として飲まれていますね。

Q6.茶は現代人にどのような影響を与えますか。

日本に現存する最古の医学書「医心方」の中に、お茶と桑は漢方の基本と書いてあります。平安時代、お茶は長寿の妙薬として考えられていたようです。お茶は万能薬で、毒消しにもなりますが、使い方次第で覚醒したり、環境によって鎮静したり。その効き目は表裏一体です。それだけ、お茶はたくさん良いものを含んでいる。いっぱい飲んで、長生きしてください。笑。特に抹茶は、ビタミンCがたくさん含まれています。お茶を飲むことはストレスの解消にもつながります。

Q7.抹茶の道具の取り合わせでは「不老長生」など縁起のいいモチーフが使われますね。

茶の木は、椿の一種。学名はCameria sinensis(ラテン語)と言います。中国古代の伝説上の大木で「大椿」という言葉があり、8千年を春、8千年を秋として見続けることが出来るのが椿。その木にとっての四季の長さは、人間の3万2千年にあたるという、長寿を祝う時に使う語です。椿は最も長生きできる、動植物の中の最高の木。その変種を飲めば、長生きできる。茶の木は不老長生のシンボルなのです。

Q8.筒井先生は「不老長生」をどう考えていますか。

人間は翁、せいぜい生きて80才くらいまで。お能でも、翁は別格の存在で御祝い事などで舞われます。長生きは人間なら誰でもが望むこと。薬を飲むのも、長生きしたいからですよね。茶席の道具の取り合わせとして、不老長生をテーマにするのは、お客様も喜び、わかりやすいからです。鶴、梅、桃など、軸の画題や道具のモチーフは、不老長生を願うものが多いですね。

Q9.筒井先生にとって茶の湯とは何でしょうか。

日常茶飯事というように、日常生活は、食事と茶で成り立っています。今は、お茶を飲むだけになっていますが、本来は、食事をし、お茶をいただき、お客さんに心地よく過ごしもらうために、いかにもてなすか。そのことだけのために4時間使うのが、茶会です。明治時代以降、礼儀作法だけを強調しすぎて、その心地よさの追求を忘れてしまったようです。茶の湯では、単にお茶を飲むだけでなく、心地よさを味わってほしいですね。それを肌で感じてもらうのが、私のつとめです。

野菜ソムリエ/調味料ジュニアマイスター NPO法人青果物健康推進協会ベジフルティーチャー井上憲子さん


野菜ソムリエ/調味料ジュニアマイスター NPO法人青果物健康推進協会ベジフルティーチャー井上憲子さん


野菜ソムリエ/調味料ジュニアマイスター NPO法人青果物健康推進協会ベジフルティーチャー井上憲子さん

プロフィール

筒井紘一 プロフィール

茶道研究家
1940年福岡県生まれ。
早稲田大学文学部東洋哲学科卒。同研究科修士日本文学専攻修了。文学博士。
今日庵文庫長。茶道資料館副館長。京都府立大学客員教授。
一般社団法人文化継承機構理事長。
著書に『茶書の研究』『懐石の研究』『茶の湯名言集』『利休の逸話』『茶の湯事始』など多数の著書があるが、本年は『平成茶道記』(淡交社)・『南方録 覚書全訳注』(講談社)を出版。

一般財団法人 今日庵 茶道総合資料館
〒602-0073
京都市上京区堀川通寺之内上る寺之内竪町682番地
裏千家センター内
■茶道資料館 Tel 075-431-6474
■今日庵文庫 Tel 075-431-3434

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